ファティマ第三予言ここに極まれり。

ファティマ第三予言の3つ目に記されているブログ。代々のローマ法王がつまらなさ過ぎて絶句し内容公表を見送るが、ついに公開のお許しを頂いた為披露する事になった。このブログは欲望にまみれ自由に生きる1人の男の真実の物語。平たく言えばアラサー独身男の日常。

《ファティマ黙示録4-23》天命

【その男、命の重さを再認識し、重い命をありがたく頂く】


先日、職場の先輩が悲しい顔をして社に帰ってきた。
なんでも取引先で打ち合わせ中、家畜の鳴き声、いや悲鳴が半端なく聞こえてきたのだという。ちょっとした田舎だったし、もしやと思って先輩が取引先の主任者に聞いた所、やっぱ屠殺場が近くにあるとの事だった。

とさつじょう。
屠殺場。。

屠殺場ってみんな知ってる?
育て上げられた豚や牛が運ばれてきて食用肉にする為の工場。
山賊に身ぐるみ剥がされて。なんて言葉の様に生やさしいもんじゃないぜ?
文字通り身ぐるみ、皮や内臓ありとあらゆるものを分解される訳。それも慈悲など一切なく。
あ、ここで屠殺場で働く人達を咎めたいって訳じゃないのはご了承。

先輩、取引先から帰る時にあまりに悲鳴が凄いから真っ直ぐ社に帰らず屠殺場様子見に行ったんだって。そしたら遠目だけどトラックに乗せられた何頭もの豚達が丁度工場に運ばれて来た瞬間に出くわした。


豚、トラック降りないんだって。


普通さ動物ってイメージだけど、自由に身動きできない狭い所、満員電車よ?しかも山の手線のピークなみの上、経験した事ない揺れとストップを繰り返され、ようやく広い所に出れると思ったら急いで出ると思わない?


でも降りないんだって。


これってさ、先輩も言ってたけど豚達(殺ラレル)って分かってるよね?
その降りない豚達を運転手だが工場員なのか分からないけど、荷台の上で何人かで思いっきり蹴飛ばしたり、ぶったたいたりして強引に降ろしてたんだって。


先輩が見たのはそこまでだったらしいけど何ともやりきれない気持ちになって帰ってきたと。先輩退社する時に俺しばらく豚いーわって言ってた。


そんな話を聞いた俺はその場ではマジっすかー何か可哀想ですね。今度から豚食う時はちっとは儚い豚の命に感謝しますわって言った。

 

その夜。
変な夢見ちゃってさ。

 

鉄格子の方向転換も後戻りもできない狭く細長い通路に縦列で豚がズラっと並んでいる。一番先頭の豚が少しひらけた部屋に入ると、待ち構えてた人間達におもっくそブッ叩かれて気絶した所を刃物で切り刻まれた。いくつかの部位に分けられた豚はそれぞれコンテナに分けられてベルトコンベアに乗せられ闇の奥へと消えて行った。勿論2頭目の豚はその様子を鉄格子のシャッター越しに見てる。2頭目は恐怖なのか踏ん張って前に進まない。


でも後列からどんどん他の豚が押してくる。


頭目の抵抗は物理的な圧力に負けて部屋に入れられ、シャッターが閉められた。
同じ様にブッ叩かれたんだけど当たり所が悪かったのか気絶までは至らなかった。でも人間そんなのお構いなしに切り刻む。意識がある豚を。


頭目の悲鳴につぐ悲鳴。そして断末魔の叫び。


頭目がバラバラにされてベルコンにて闇の奥に消えて行った時チャイムが鳴った。
部屋の中にいた凶暴で凶悪な人間達は扉を開けて出て行き、3頭目は凄く安心した。

 

その瞬間俺の意識は3頭目と4頭目にフォーカスされたんだ。

目尻に傷がある4頭目が3頭目のケツを鼻で突きながら言う。
「その安心無駄無駄。どーせ少し経ったら俺達殺されちゃうから」
頭目は振り向くこともできず、いまさっき同類が残虐な行為を受けた部屋を見ながら言葉を返す。
「分かってる。でもその前に少しでも母ちゃんや兄弟、そしてヒロシさんの事を思い返す時間ができたから少し嬉しいんだ」
「親兄弟は分かるけどヒロシって誰だよ?」
頭目の問いに3頭目は嬉しそうに答える。
「僕を大事に育ててくれた人間。ご飯いっぱい食べれば褒めてくれたし、言う事聞いたらずっと優しい顔で撫でてくれたんだ」
「なに言ってんだお前。仲間が無惨に殺されてんの特等席で見てたろ?あんなひでー事してんのもそのヒロシとかいう人間の仲間だぞ。俺はここに来て理解したね。人間てやつぁ自分らが食う為だけに勝手に俺らを増やして勝手に殺す悪魔みてーな、いや悪魔そのものだぜ」
「君の言う事も分かるよ。でもヒロシさんはそうじゃないって思いたい。だって僕ヒロシさんの所にいた時凄く幸せだったもん」
「そうか。俺のとこの人間は決まった時間にメシくれるだけだったがな。でもお前さ、結局そのヒロシってやつに裏切られてんじゃねーか」
「そんな事ないよ。僕には楽しい思い出しかない。あ、でもヒロシさん僕をトラックに乗せる時凄く悲しい顔してて僕がなにか悪い事したんだなぁって考えてたらここに着いてたんだよね。もう一度会えたら謝りたいなぁ」
頭目はもう何も言えず、その時を待つことにした。


しばらくして再度チャイムが場内に鳴り響いた。


部屋に人間達が戻って来た。さっき出て行った時よりも僅かに元気になっている様に見える。
シャッターが開けられた。
今まで黙っていた4頭目が3頭目のケツを突いて言った。
「行ってこい。喜んで奴等の糧になってやろーじゃねーか。胸張っててめぇの天命を全うしてこい!」
頭目は一度だけ大きな身震いをしてから部屋に入り、直ぐ4頭目の方に振り返った。
「ありがとう。僕できる事ならヒロシさんに食べてもらいたいな。それでヒロシさんがおいしいって喜んでくれたら恩返しもできるし、生まれてきた意味もあるってもんだよね!」

頭目が嬉しそうに前足を上げた瞬間、人間達の手が振り上げられた。


そこで夢が覚めた。


昼頃だったかな。俺は速攻で吉野家に向かって豚丼注文したね。丼が運ばれてきて一口食べて、ちゃんとおいしいよ。ありがとうと心の中で呟いた。
この豚が先輩が見た屠殺場の豚じゃない事を祈りながら。